シアトル救急医療体制視察研修に参加して
平成11年2月8日( 月 )午後6時55分、名古屋空港発デルタ航空74便に東海地区の医師3名と救急救命士6名が乗り込み、
シアトルへと出発した。
昨年同時期にA医科大学高度救命センターのN先生及びN市消防局O氏をはじめとする総勢13名の方々による
シアトル視察研修が始まり、今年度で2度目の視察研修に参加させていただく機会を得たのである。
あらためて言うまでもないことだが、日本で救急救命士制度が発足して8年。
なにが変わったか?
市町村に救急業務が義務づけられて以来、救急患者の搬送は救急隊によって行われている。
この制度の意義は、プレホスピタルケアにおける「心肺停止患者」の救命率向上にあることは、いうまでもない。
我々救急隊の活動は、以前に比べ確かに変わりつつあると思う。患者に対する観察能力、救急処置の向上及び医療機関との連携など
救急医療を取巻くさまざまな業務…。
しかし、救命率の向上に関していうならば、(少なくとも当市においては、)あきらかに有意な差をみることはできない。
自分自身の勉強不足もかえりみず、海の向こうにその答えを見つけ出したいと思った。
シアトル空港に到着したのは、2月8日の午後2時頃(時差約17時間)。
シアトル市消防局メディカルオフィサーのドナルド・E・シャープ氏はじめ2名のパラメディック(レス・デービスとホーギー)
がわざわざ空港まで出迎えてくれた。
その夜、DR.コーパス、コブをはじめとし、シアトル市消防局消防長らによる歓迎会が催された。
時差ぼけと緊張感のため眠れない夜を過ごし、翌日から研修は始まった。
到着した当日の午後、歓迎会が催された。

*シアトル市消防局消防長とのスナップ

*到着後、レスとホテルのラウンジにて
研修は、ハーバービュー・メディカルセンター、シアトル市消防局指令センター等各施設の見学。
静脈路確保、気管内挿管及び心肺停止を想定したシミュレーションのレクチャーを受けた後、
6名の救命士は、それぞれのパラメディックが運用するメディックカーによる2日間の
救急車同乗実習を行い、自身7例の出場を経験した。

*ハーバービューメディカルセンター内の処置室

*心肺停止患者に対するアプローチについての講義(プランA)

*気管内挿管と静脈路確保がなされ、薬剤を投与している訓練。

*心室細動に対して、薬剤投与 ― 除細動が繰り返される。

*医療機関の医師から常に教育を受けている(メディカルコントロール)パラメディックらは、
何十種類もの薬剤を使いこなす。
もちろん、彼らは常に自己研鑚し、定期的に病院研修も行っている。

*通信指令室。
4つの指令台にそれぞれ1名ずつの通信員がいる。


*通報に対応している通信員。パソコンソフトには、口頭指導マニュアルも組み込まれいる。

*消防車両には、除細動器等の救急資器材が搭載されている。
パラメディックの乗車するメディックカーに2日間、同乗し実習を行った。
特に印象深かった症例を紹介する。
ハーバービュー・メディカルセンター内にあるメディックOneオフィス
(パラメディックが運用する救急車が常駐している)にて。
推定40歳女性、意識障害及び不穏。
要請を受け、現場到着した時点では、すでに消防車及び通常の救急車(エイドカー)
による5名の消防隊と救急隊が患者に接していた。両下腿の欠損のため、車椅子生活。
意識混濁、不穏がみられ、すでに到着済みのEMT(計5名)が患者に寄り添い、
鼻腔カニュラによる酸素投与がなされていた。
現着したパラメディックは、到着済みの隊員から状況及びバイタルサインの報告を受け、
5%ブドウ糖溶液による輸腋を開始し、同時に血糖値の測定を行った。測定値の結果は、「低血糖」。
さらに50%ブドウ糖溶液を静脈路(i.v.ライン)より投与したところ、患者は劇的な回復をみせ、
パラメディックによるメディックカーの搬送は、なされなかった。
この症例は、CPA症例ではない。しかしながら、このような症例においても日本の救急医療体制とアメリカ(シアトル市)
の救急体制には、大きな違いがあった。我々が出場した事案として仮定するならば、3名にて出場し、
酸素投与のみがなされ、意識障害を遷延させた状態で病院搬送されるのが現状ではないだろうか。
まさに、「patient for patients」:「患者の命を救うためにどんな苦労があろうが、患者中心とした医療を行っていく」
という理念をみた思いである。
救命に対する意識は、つながりを持ち、関わるすべてのスタッフが同じ気持ちでなければならないことを再認識した研修であった。
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