メディック・ワン同乗記

72歳男性。ファミリーレストランで妻と食事中、突然の呼吸困難と胸苦を訴え、救急要請。 救急隊員4名により特命出場した。
途中、心肺停止状態であるとの情報を受け、 同時に通信係員による心肺蘇生法の口頭指導が行われる。

現場到着時、患者はレストランフロアで仰臥位で倒れ、心肺停止状態を認めた。 CPR着手し、除細動モニター装着。心静止を認める。医療機関に特定行為の指示要請を行い、 ラリンゲアルマスクを挿入、換気良好。メインストレッチャーに患者収容し、 搬送中、静脈路確保を実施しCPRを継続し、搬送した。

搬送に要した時間は、出動から約25分。 院内で待機していた医師と看護婦は、静脈路よりエピネフリンを投与しさらにCPRを継続しつつ、 気管内挿管される。心電図上の変化はみられない。 さらにエピネフリンが投与され蘇生処置が続けられる…。


1999.2.13 メディック・ワン同乗2日目。

注意!現在の救命士制度と異なるところもありますが、当時の記録としてご覧ください。

私は、1例のCPA症例をみることができた。 上述の内容は、シアトル市で体験した1例を当市の救急救命士が同乗する救急隊が活動した と仮定したならばこうなるであろうと思われることを書いてみた。

その日は午前より、ハーバービューメディカルセンター内にある メディック・ワンオフィスの広いイスに腰掛け、出動を待っていた。 午後12時過ぎ、A医大のI先生と私は、初日に空港で出迎えてくれたパラメディックのホーギーさん の呼びかけにあわてて M1の患者室にとび乗った。

助手席には、女性のパラメディックが1名。車庫のシャッターが開き、 救急車は、走り出した。街中をサイレンの音を響かせ走る。

患者は、72歳男性。妻とレストランで食事中、突然胸苦及び呼吸困難を訴え要請したもよう。 途中、ホーギーが「CPA!」と知らせてくれる大きな声が耳に届いた。

現場に到着し、すでにレストラン駐車場には、消防車(消防隊3名乗車)、エイドカー(EMT2名)が停車(先着)していた。 店の中に入るとCPR実施中で、すでに気管内挿管がなされていた。 (エイドカー2名の隊員の内、1名はパラメディックであったため、到着してすぐに挿管がなされていた。) 除細動器によるモニターもなされていたが、波形は心静止であった。 EMTによって、輸液ラインが作成され(輸液:5%ブドウ糖溶液)、 ホーギーは、右正中にて静脈路を確保する。 輸液ラインよりエピネフリン投与。CPR継続。 さらに気管内よりエピネフリン投与。左正中からも静脈路を確保し、 CPR継続。その後、心電図上の変化がみられ、VF。

12:05、200JでDC(direct current shock) 実施。 VF継続。リドカイン投与。200JでDC実施。VF継続。 エピネフリン投与。360JでDC実施・・・。 薬剤投与―除細動の処置が繰り返され、途中、換気中の呼吸音聴取により呼吸音低下がみられたことから、 気胸を疑い減圧のための穿刺針が前胸部に留置された

13:05、5度目の除細動後、波形はワイドQRSに変化し、 脈拍触知するも触れず。 13:13、心静止。 この時点で、初めて医師に連絡を取り、状況を報告し蘇生処置は断念された。

その後、死亡診断は、パラメディックが行い、家族への説明がなされ、ロングボードにのせられた72歳の男性は、 エイドカーに乗せられ、死体公示所(Morgue)へと向かった。

この症例は、蘇生には成功しなかった。 しかし、救命のために誰もが最善の努力を行い、 また、それをあたりまえのこととして、受け入れる市民。
患者のためになすべき最善の行為が何であるかを目の当たりにした光景であったように思う。


それでは、この事案を例にとり、私が勤務している救急隊の活動との違いを考察してみたい。

1. 通報からの反応時間
当市では、覚知時間を基点とし、現着までの時間が平均で約5分。実際には、指令が流れるまでの時間は、隠れてしまっている。
シアトルでは、ファーストレポンダーの通報からの反応時間が約3分から5分とのこと。

2. マンパワー
この事案では、最初に到着したEMTが5名。後着したパラメディックが2名。さらに、警察官が2名いたのを確認した。 これらすべての人々がひとりの患者にかかわっていた。
当市では、救命士が勤務する管内で救命事案が発生すれば、4名。また、管外であれば、救急車2台による同時出動で6名である。

3. 口頭指導
シアトルでは、通信指令員もすべて医学的な教育を受けており、 さらに通報時の症状等によりプロトコールにそった口頭指導がなされている。そのプロトコールは、 通信指令員ひとりごとに置かれたパソコンに入力されており、それが有効に活用される。
当市では、現在口頭指導マニュアルはあるものの、個々の医学的知識に格差があり、口頭指導が有効に機能していない。

4. 出場隊員の資格
EMTが除細動モニターを装着していた。 解析装置により必要があれば除細動を行う。

5. 気道確保
パラメディックが医師の指示なくして、気管内挿管を実施していた。 救急救命士は、医師の指示がなければ、ラリンゲアルマスク及び食道閉鎖式エアウェイの使用はできない。

6. 静脈路確保
同様。輸液として5%ブドウ糖溶液、ラクトリンゲル、生理食塩水等。
救急救命士は、ラクトリンゲルのみ認められている。

7. 薬剤
CPAの心静止状態の患者に対し、エピネフリンを使用していた。 その後、VFの出現・持続によりリドカイン、エピネフリンを除細動を交え、交互に使用。同様に医師の指示は得ていない。
日本の救急隊に認められている薬剤は、酸素のみである。

8. 除細動
薬剤投与後、VFが出現したことによってすでに装着された解析装置付きの除細動器により、 すみやかに除細動が行われていた。同様に医師の指示は得ていない。
救急救命士は、除細動を行う場合も、医師の指示が無ければ行うことができない。

9. 搬送
この事案では、現場にて日本の救急処置室さながらの救命処置がなされ、蘇生に成功しなかった時点で初めて、 医療機関への状況報告となり、救急隊の活動は現場で終了している。
このことは、患者に対して脳蘇生を目標とした処置がすこしでも早期になされていることを物語っている。
救急救命士の活動であったならば、心拍を再開させ得る唯一の手段であ る除細動器を装着し、そこで、VFがなければ、CPAを継続し搬送がな され、病院の処置室に入るまでは、心拍を再開させ得る処置がなされるこ とはない。

さいごに
救命に対する気持ちは、患者のためにあるということを再認識させられた。 それが、上手く機能していくためには、何が必要なのかと考えると、単にBystanderによる早期のCPRだけでなく、 消防機関全体の救命に対する意識と医療機関との連携等すべてが同時になされ進行していくことによって救命率の向上が図られていくのだと確信した。


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